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  • Lūchū Study Group and Folx in Solidarity

私たちの文化は解決の糸口となるものであり、問題の源となるものではない

Updated: Dec 22, 2022

VICE mediaのビデオに対するオープンレターの日本語訳です。

私たちは沖縄にルーツのある研究者、アーティスト、教育者、コミュニティーの一員として、国際的に有名なヴァイス・メディア(VICE Media)が近年制作した動画に対して懸念を表明します。VICEによる『南の島のダークサイド』『日本人のステレオタイプに収まらない沖縄の〈アメ女〉』はどちらも沖縄の人々に対する固定観念や偏見を煽るものとなっており、沖縄県の歴史的背景に起因する今日の沖縄の人々の苦難を無視する形で、沖縄県の貧困、飲酒、ジェンダーの問題を取り上げ、不当に沖縄の人々を責める内容となっています。こうした動画には、話題を呼ぶための扇情主義や沖縄の人々に対する有害な偏見が用いられており、植民地化の歴史と現在も続く制度的暴力により島の人々が未だに癒えない傷を抱いているという事実が覆い隠されています。


VICEが制作した動画は、沖縄島に焦点を当てる際に避けて通れない歴史的観点を欠いており、沖縄の人々が直面している日本とアメリカによる二重の植民地支配を見落としています。それどころか、これらの動画は高圧的かつ家父長的な論調をとることで、沖縄の人々について不公正な結論づけがなされています。つまり、貧困、飲酒、ジェンダーや女性の問題が「沖縄の文化によって作り出され、維持されている」と示唆しているのです。これは明らかに人種差別的なガスライティング(個人に虚偽の情報または捻じ曲げた解釈を信じ込ませることで、その個人が自分自身を責めるように仕向ける精神的虐待)です。実際、VICEのこれらの短編ドキュメンタリーの作中で取り上げられた沖縄文化の「専門家」は、沖縄人ではないビジネス学専門の日本人男性教授たった一人でした。2020年に彼の著作である『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(光文社新書)が人気を博しましたが、彼の沖縄に関する分析は二重の植民地支配と構造的差別を無視したものとなっています。もし、VICEの動画制作チームが入念な取材を行っていれば、彼よりも学術的に鋭い分析ができる研究者の方々に出会えていたはずです。メディアによるこのような描写が、貧困を悪化させる抑圧や構造的暴力を永続させています。その上、作中でインタビューに答えている人々の多くは、極端な日本国家主義の視点の持ち主であり、沖縄の一般的な人々を代表しているとは到底言えません。私たちはVICEに対し、これらの動画がもたらす悪影響に対する責任の所在と適切に対処する責任を求めるとともに、今後のメディア報道と対話では、沖縄が抱える世代を超えたトラウマと、日本とアメリカによる二重の植民地支配の間に明らかな関連性があることをきちんと提示することを要求します。



二重の植民地支配

この書簡を通して、VICEの皆さまに、沖縄の現在の貧困と他県と異なり沖縄県に強いられている特定の経済開発の関係性を明確に捉えている長年の学術的知見をお知らせしたいと思います。現在の沖縄の貧困および脆弱な経済は、文化が原因なのではなく、沖縄戦や27年もの米軍による占拠、米軍占領下での日本国憲法からの除外、日本に施政権が移行した後も続く米軍基地の存在といった歴史的な経緯の結果です。沖縄の歴史と沖縄が有する日本国政府との関係性は、日本の他の県とは異なっています。今日も、日本政府は沖縄振興計画という政策の下で、沖縄の経済発展を統制し続けています。日本政府が沖縄の経済発展に対する基本方針を策定して初めて、沖縄県に経済振興計画の立案が許されるのです。この政策は沖縄の自治を家父長的に制限し、沖縄の意思決定過程に構造的な圧力をかけています。このように、沖縄県は他県とは異なり、自己決定権が制限されています。


実際、沖縄の貧困の歴史的側面と構造的側面について検討するには、米国と日本による二重の植民地支配の歴史に光を当てなければなりません。まず、沖縄はかつて琉球という独立した王国であったことを認識することが不可欠です。1609年に日本による植民地化が始まり、1879年に琉球王国は日本に正式に併合されました。それ以来、日本政府は沖縄の人々に同化を強いています。ことばや文化をはじめとする「沖縄らしさ」が否定され、現代社会の中で望ましくないものとみなされています。植民地化と同化により、沖縄のアイデンティティは恥ずべき汚名の源となってしまいました。こうした植民地化により、沖縄はもとより世界中の先住民コミュニティに高い貧困率と不平等がもたらされています。さらに、沖縄の貧困の問題を考える上で、米国と日本が、日本の領土の0.6%を占めるに過ぎない沖縄に日本国内の米軍基地の約70.3%の負担を強いていることも無視できません。



世代を超えたトラウマ

私たち沖縄の人々は、先祖が歩んで来た歴史や物語を世代を超えて記憶しています。トラウマはDNAに刻み込まれるようにして世代間で受け継がれる可能性があることが数々の研究で示されています。また、トラウマを抱えた人々は、痛みから目をそらすためにアルコールに依存する場合があることが広く知られています。沖縄は二重の植民地支配に起因する数々のトラウマを抱えているため、歴史を詳しく検証することによって、VICEの動画に描かれたアルコール依存症の問題を別の角度から解明することができると考えています。日本政府は1879年以来、沖縄の人々に同化を迫っています。


第二次世界大戦中、沖縄諸島にアメリカ兵が上陸しました。後に沖縄戦として知られるようになるこの戦争が始まった時、日本軍は沖縄を防波堤として利用しました。日本本土への大規模な攻撃を減らすために、沖縄での戦闘を意図的に長引かせたのです。この戦争中、4人に1人の沖縄の民間人が死亡しました。戦前そして戦時中、沖縄の人々は「米兵に捕まるくらいなら死んだ方がましだ」と教育されました。「少女や女性は強姦されて殺され、少年や男性は残酷な拷問を受けて殺されるぞ」と。その結果、700人を超える民間人が集団自決や自殺で命を落としました。


米軍は、沖縄戦直後の1945年から1972年まで沖縄を占領し、沖縄の人々を強制収容所に収容して、その間に沖縄の土地を接収して基地を建設しました。朝鮮戦争中(1950~1953年)にも、米軍は土地を強制収用して基地を拡張しました。この出来事は「銃剣とブルドーザー」として知られています。米軍占領下で、子供を含むたくさんの沖縄の民間人がひき逃げ、強盗、レイプ、その他の凶悪犯罪の犠牲になりました。それにもかかわらず、犯罪を犯した米兵が公正に起訴されることはほとんどありませんでした。VICEの動画は、こうした強制移住や暴力に起因する世代を超えたトラウマによって島全体に貧困がはびこっている事実を歪曲し、見えにくくしています。


ジェンダーの問題

「アメ女」とは、アメリカ人との交際を好む沖縄女性に対する蔑称であり、この問題は慎重に取り扱うべきです。米軍基地の存在は、特に沖縄の女性と子供にとって大きな脅威となっています。女性は男性兵士への「報酬」とみなされているからです。ですから、沖縄におけるジェンダーの問題について考える際は、日本と米国による構造的暴力を考慮しなければなりませんが、VICEの動画ではこの点が無視されています。通常、レイプ事件が表沙汰になることはありません。これは被害者が叩かれ汚名を着せられるからです。


米国がまるで民主主義と自由の鑑(かがみ)であるかのようなアメリカ例外主義が世界的に浸透しているため、沖縄の少女、女性と米兵の間には、制度的権力の差が存在します。米軍の焦点は、女性、性自認が男女に二分されない人々、先住民を「劣った」人々とみなし、支配、征服することにあります。それにもかかわらず、VICEの動画は、彼女たちが置かれた社会政治的構造を顧みることなく、東洋に対する偏見、家父長主義、女性蔑視をあおる西洋人男性の視線を通して「アメ女」を描いています。端的に言って、被害者を叩き、ガスライティングの言い訳を並べているにすぎません。


私たちが望むこと

私たちは何よりもまず、VICEに対し、責任の所在と適切に対処する責任を求めます。倫理的かつ道徳的な対応として、この2つの動画を取り下げること、もしくは、沖縄に対する不公平な制度的問題が上述した歴史的な植民地支配によってどのように引き起こされているかを理解した上で、より的確な動画を制作することが求められます。この植民地支配の影響は、現在も沖縄の政治的、経済的、社会的構造に大きな影響を与えています。つまり、VICEの動画が描くように、沖縄の人々の生き方そのものがこうした諸問題の源となっているわけではないのです。


私たちはこの書簡を執筆する前に、VICEの動画制作チームと率直な話し合いの場を持つために連絡を試み、制作チームが報道倫理に基づいて回答する権利を行使できるよう機会を提供しましたが、かないませんでした。ここで指摘しておきたいのは、マスメディアと報道の世界には「不当な描写」が溢れているということです。上述したように、沖縄の人々は様々なトラウマと心の痛みを抱えており、未だに日本とアメリカによる二重の植民地支配により疎外され抑圧されています。不当な描写を続けることで、沖縄にルーツのある人々が多大な被害を被っています。実際、沖縄や沖縄ディアスポラ(沖縄出身者からなる移民コミュニティ)で自分のルーツを探し求めている人々の中に、VICEの動画が発する否定的なメッセージを内在化してまう人々がいます。動画が描いているイメージは「沖縄文化が問題の源であり、貧困、飲酒、ジェンダーの問題は沖縄の人々自身に責任がある」というものです。繰り返しますが、これは人種差別的なガスライティングです。私たちは、マスメディアによって常に批判され、被害者扱いされ、搾取されることにうんざりしています。これらはすべて沖縄の人々を非人間的に消費する行為です。


私たちは、この公開書簡が研究者、活動家、報道・メディア関係者の方々の目に広く留まり、沖縄の問題に関する報道に潜むバイアスと、それがもたらす悪影響の可能性について検討するきっかけとなることを望みます。意識的に歴史的観点に注意を払い、トラウマに基づいて現状を批判的に分析できる実践、方法論、指導、情報発信のあり方が発展することを願っています。また、分野間連携を推進し、ともに手を携えて団結することができたらと願っています。どうか、私たちの直面している苦難に誠意をもって耳を傾けてください。メディア関係者の皆さまが沖縄のコミュニティの人々からの批判を甘受し、積極的に優れた報道を実践してくださることを願っています。私たちは皆、不完全な人間であり、間違いも犯します。そして、誰でも過ちから学ぶことができます。報道・メディア関係者の皆さま、報道を発表する前に、どうかもっと広く沖縄の人々に取材してください。沖縄内外に、沖縄にルーツがある活動家、研究者、報道関係者、コミュニティの人々が数多く存在するからです。また、コミュニティの人々の知識と主体性(社会に変化をもたらす力)を中心に据えた報道をお願いいたします。例えば、沖縄の人々が達成したことや現在進行している活動に焦点を当てた報道などです。外部から取材に来られる方々には、沖縄の人々が現在もトラウマを癒し、脱植民地化し、自身の世界観を取り戻し、世界の中での自身の立ち位置を確立するプロセスの途上にあることを是非ご理解いただき、報道の際はくれぐれも細心の注意を払ってくださいますようお願いいたします。


誠意あるご回答をお待ち申し上げます。





*この書簡には、ディアスポラを含む琉球ルーツの方々が20名以上署名しています。






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